僕が自分の額の広さに違和感を覚え始めたのは、大学を卒業し、社会人になったばかりの23歳の頃でした。会社のトイレで何気なく鏡を見たとき、蛍光灯の光に照らされた生え際が、以前よりも明らかに後退しているように見えたのです。その瞬間、心臓が冷たくなるような感覚に襲われたのを今でも覚えています。それからの日々は、まさにコンプレックスとの戦いでした。朝、髪をセットするたびに、どうすればM字部分を隠せるかということばかり考え、ワックスで無理やり前髪を下ろして固めるのが日課になりました。友人たちとの飲み会では、薄毛をネタにされるのが怖くて、常に誰かの視線を気にしている自分がいました。周りは誰も気にしていないのかもしれないのに、僕の世界は「若ハゲ」という悩みを中心に回っていました。藁にもすがる思いで、インターネットで評判の育毛トニックを買い込み、毎日頭皮に振りかけました。しかし、数ヶ月経っても効果は感じられず、シャワーの排水溝に溜まる抜け毛の量は減るどころか、増えているようにさえ感じました。焦りと絶望で、自己肯定感はどんどん下がっていきました。そんな僕を見かねたのか、ある日、会社の先輩が「そんなに悩んでるなら、一回専門のところに行ってみろよ。俺も昔行って、気が楽になったぞ」と、声をかけてくれたのです。最初は恥ずかしかったけれど、その一言に背中を押され、勇気を出してAGA専門のクリニックの扉を叩きました。医師は僕の悩みを真摯に受け止め、マイクロスコープで頭皮の状態を見せながら、僕の症状が典型的なAGAであること、そして今から治療を始めれば進行を食い止められる可能性が高いことを丁寧に説明してくれました。誰にも言えずに一人で抱え込んできた悩みを、専門家が理解してくれた。その事実だけで、涙が出そうなくらい救われた気持ちになりました。治療を始めて一年、髪が劇的に増えたわけではありません。でも、僕はもう、鏡を見るのが怖くなくなりました。
鏡を見るのが怖かった僕が若ハゲと向き合った日々